エンジニアのソフトウェア的愛情

または私は如何にして心配するのを止めてプログラムを・愛する・ようになったか

(ようやく)読了「知識経営のすすめ」

バテてます。暑さでバテた記憶があまりないのですが、このひと月ほどの様子を振り返ってみるとバテてますね、これは。気持ちも低調、体力も低下。二、三週間ほど一日一食で過ごしていたし。特に消耗するほど活動していたわけでないけれど、逆に活動しないことで基礎体力が低下したのかも。わりと涼しい日が続いたおかげか復調の兆しが見えてきたと思ったら、またこの暑さ。観念して夜間だけ少しだけ冷房入れることにしました。

ま、それはそれとして。

「知識経営」とは

野中先生と紺野先生の共著「知的経営のすすめ」を読了。

昨年の9月に野中先生の講演を拝聴しましたが、実際に著書にあたるのは今回が初めて。いきなり大著に挑んでもついていけそうにもないので新書を選択。たぶん正解でした。新書でありながら非常に濃い内容。

ナレッジマネジメントとその時代」と副題にもあるように、言葉としては「知識経営」はナレッジマネジメント knowledge management の訳語になりますが、単に知識を管理活用する(本文中ではこれを狭義のナレッジマネジメントとよんでいます)だけでなく、知識自体が価値の源泉であると説いています。

10ページと読み進めないうちに「がーん」ときました。


「オレたち、なんて周回遅れなことやってるんだろう…しかも何周もっ!」


いまの事業が芳しくないのもさもありなんという感じです。それを1999年に著された本書で指摘されたわけですから、もう「がーん」です。

製造業はもはやハードのみの生産者でなく、ソフト、サービスを融合した価値を提供する、あらたな存在をめざすべきである


「知的経営のすすめ」 p.015

わたし自身がここ数年感じていること、年を追うごとに強く感じていること、で上司とバトルになる話題。それが冒頭で断言されています。自分の考えがそれほどずれていないと思うと同時に、気付くのにこんなに時間がかかったのか、と。

知識経営とアジャイル

先の引用した文章、文の一部を切り出したものですが、その文を前の段落から読むとまた興味深いです。1990年代のアメリカの製造業を主眼においた文章なのですが。

この時期の、エポック・メーキングな概念のひとつが「アジリティ」(agility 俊敏性)または「アジル競争」です。アジルということばは、単に早いだけでなく、知的に俊敏であることを意味します。よく引き合いに出されるのですが、電子メールにすぐ返事を書くことだとか、お客の要求に条件反射的にバタバタ走り回ることではありません。
アジリティの考えは、従来の米国製造業が限界を認識し、それを超えようとしてた時期に生まれてきました。つまり、製造業はもはやハードのみの生産者でなく、ソフト、サービスを融合した価値を提供する、あらたな存在をめざすべきである、と。そうでない限りグローバルな競争環境において生存不能だ、という認識です。


「知的経営のすすめ」 p.015

このあとにもアジリティ、アジル(アジャイル agile の別読み)ということばが繰返し出てきます。こうして見ると(そもそも経済にも経済史にも疎く検証していないのでわたしの想像の範囲を出ませんが)ソフトウェアのアジャイル開発というのもソフトウェアだけのものに限らず、アメリカの産業界の流れの中で生まれてきたものなのかもしれません。

「21世紀の製造業業は知識産業」

いまはまだ一度読み下しただけで充分消化できていないので、後日あらためてエントリを書きたいのですが、話を切り上げる前に一点。

最後の20ページほど、全体の一割ほどですが「第6章 創造パラダイムの経営」として製造業のあり方について言及されています。この章は傍線を引きすぎて真っ赤なんですが、そこでは製造業はハードとソフトを融合した「知識製造業」になれと説いています。

知識製造業とは(中略)その製品には、ハードなモノの「価値」ではなく、提供する知識の価値が問われます。(中略)ハードに意味がないのでなく、ハードを使って何をなす、その知識やノウハウ全体が大事で、ハードはその世界への入場券だといってもいいでしょう。
(中略)知識製造業の製品の特徴はどれあだけ製品が知識化されているかで決まる。つまり知識コンテンツ(Knowledge Contents)の比率の高さが問われるのです。


「知的経営のすすめ」 p.218

以前、メーカーといえど、デバイスを中心に考える時代ではないだろうというエントリを書きました。この考え自体に目新しさはないですし思い付きのレベルを超えるものではないですが、メーカーの中の人としてもの作りにかかわったうえで自分で体感したものです。こういう考えをもつわたしは会社の中ではマイノリティですが、だからといって口をつぐんでいてはいけないという思いを新たにしました。


…そのまえに夏バテどうにかして気力体力を回復させないことには話になんないですけど。


知識経営のすすめ―ナレッジマネジメントとその時代 (ちくま新書)

知識経営のすすめ―ナレッジマネジメントとその時代 (ちくま新書)